【高校地理】日本の農業を世界と比較!構造・政策・最新事例を徹底解説 | 世界の農林水産業

Kiri
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こんにちは!現役地理教員のKiriです。

今回の記事では、高校地理「世界の農林水産業」の第9回「世界と比べた日本の農業」について解説します。YouTubeチャンネル@地理を通して世界を知ろうでは同じ内容の解説を動画でもご覧いただけます。

日本の農業には、世界と比較してどのような特徴があるのでしょうか?

この記事では、日本の農業の特徴を「構造」「政策」「事例」という3つのパートから解説します。

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世界と比べた日本の農業構造

1人あたり耕地面積

日本の農民1人あたりの耕地面積は約1.6ha。陸上競技場ほどの大きさです。
一見広く感じますが、オーストラリアは約95ha、アメリカは約73haと比較にならない規模です。
日本の農地が陸上競技場程度なのに対し、アメリカやオーストラリアはディズニーランド(51ha)の約1.5倍。大量生産・低価格販売が難しい理由の一つです。

耕地面積の割合

狭さの理由の一つは地形です。国土の約7割が山地で、平地は約3割。平らで広い農地は限られています。
国土に占める耕地の割合は日本で約12%。フランスは約36%、アメリカは約17%です。

人件費

タイや中国も耕地面積は小さいですが、価格が安い理由は人件費にあります。
例えば、タイの農業日雇い労働者の賃金は1日約1,500円。

日本は最低賃金でも約9,000円と数倍高く、その分商品価格も高くなります。

農業産出額

日本は耕地1haあたりの農業産出額が高いのが特徴です。限られた土地でも高品質・高価格な農産物を作る努力を重ねています。

農業人口

農業就業人口は減少傾向で、約7割が65歳以上。高齢化が深刻です。

まとめ:日本の農業は土地が狭く、人件費が高く、高齢化が進む厳しい環境ですが、単価の高い農作物で経営を成り立たせています。

でも、日本の農作物が高い理由は、これだけではありません。

日本の農業政策の変遷

今度は、政策という視点からも日本の農業を理解しましょう。
 日本の農業政策の歴史は、少し乱暴に言えば:
「とにかく作れ!」→「やっぱり作るな!」→「どうぞご自由に」
です。どういうことでしょう? 順番に解説します。

戦後農政:「とにかく作れ!」

戦後は「とにかく作れ!」の時代。日本中で食料が不足していて、農家はとても貧しい状況でした。
 もし皆さんが当時の総理大臣なら、どんな方法で国民に食料を行き渡らせますか?
 当時の政策は、農家が作った米を全て政府が買い取って、政府が決めた価格で販売するというものでした。米を作れば必ず国が買い取ると約束することで、どんどん米を作らせたわけです。

減反政策:「やっぱり作るな!」

 ところが、米の生産が増えて国が豊かになると、今度は逆に米が余るようになりました。そこで、「やっぱり作るな」の時代です。
 政府は1971年から「減反政策」を導入。政府は農家に「米を作らないで」とお願いし、作らなかったら補助金を出すという仕組みにしたんです。
 当然規模拡大は進まずに、小規模経営が多く残って、生産コストが高止まりすることとなりました。

 一方その頃、タイやベトナムは何をしていたか?“さあ、水田を広げよう!”と政府主導でどんどん農地を開墾。結果、世界有数の米輸出国になりました。もちろん色んな事情が日本と違いましたが、まさに“内向き vs 外向き”の戦略ですよね。

牛肉・オレンジ輸入自由化

 減反政策で補助金を出すだけでなく、海外からの農産物の輸入を制限することでも、日本政府は農家を守ってきました。ところが、1991年に牛肉とオレンジの輸入が自由化。そこから他の農作物の輸入制限も緩和されて、日本の農家は外国の安い農作物と競争していくことになりました。

流通自由化:「どうぞご自由に」

 そして1995年からは「どうぞご自由に」の時代がやってきます。
 農家は米を政府に強制的に売る必要がなくなり、スーパーなどに自由に販売できるようになりました。これを、米の流通自由化と言います。要は「補助金を減らすので頑張って競争してください」ということです。

減反政策終了

 そして2018年には、50年近く続いた減反政策がついに終了しました。作りたい人がより自由に作れるようにしたのです。
 とは言え、今さら「好きにしていいよ」と言われても、すでに日本の農家は高齢化しており、農地はそう簡単には変えられないのも現実です。

まとめ:特に米については、海外と比べて価格が高いという構造が、政策的にも作られてきたと言えるでしょう。

日本農業の新たな挑戦

なかなか厳しい日本の農業ですが、最後のパートでは、近年の新たな動きを解説します。

ブランド化と輸出拡大

一つ目の動きは、農業のブランド化海外輸出です。特に、和牛や日本の果物は、高品質で安全ということで、アジアの富裕層を中心に人気が高まっています。こちらのグラフは日本のリンゴの海外輸出量の推移ですが、大幅に増えているのが分かりますね。リンゴの輸出先は、そのほとんどが台湾です。
 実は私先日、タイに旅行に行ってきたのですが、そこで1個1000円で売られている青森産のリンゴを見つけました。現地で作られるリンゴの10倍の値段です。日本の農家の努力と挑戦を感じました。

企業の参入

 もう一つの動きは、企業の参入です。家族経営が中心だった日本の農業において、新たな担い手として注目されています。

 例えば、株式会社イオンなども農業に進出し、自社のスーパー向けに農業生産法人を立ち上げ、野菜や果物を生産しています。

 とは言え、採算が合わずに撤退した例もたくさんあります。

外国人技能実習生の受け入れ

 そして近年では、不足する労働力を補うために、外国人技能実習生の受け入れも急速に進んでいます。

農業の6次産業化

 最後は、農業の6次産業化です。6次産業化とは、農業(1次産業)に加えて、加工(2次産業)販売・サービス(3次産業)を組み合わせることで、付加価値を高めようという取り組みです。

 例えば、アグリツーリズム。田植えとか、ジャム作りとか、野菜の収穫体験などを行える体験型の観光サービスです。

まとめ

日本の農業は、地理的制約や高コスト構造、高齢化など多くの課題を抱えていますが、ブランド化、輸出、企業参入、外国人労働力活用、6次産業化など新たな挑戦も進んでいます。

世界と比較した視点で、日本農業の強みと課題を理解することが、今後の持続可能な発展への第一歩です。

確認問題

今回の解説は以上となります。

「世界と比べた日本の農業」の確認問題にチャレンジしたい方は以下にアクセスしてください。

 また、感想や質問などもあれば、YouTubeのコメント欄にお気軽にお書きください。

 次回の解説動画では、「世界の食料問題」について解説します。それではまた次回!

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